「うちの新商品はめったにヒットしないんですよ」
「うちはマーケティングが下手な会社なんで・・・。」
私達の本業でも、いろんな現場にてよく耳にするセリフです。
もちろん、新商品なんてそう簡単にヒットするものではありません、ヒットする
確率は、「ヒットする」の定義も各社まちまちですが、いずれにせよ微々たるもの。
だからこそ、こんなセリフは「よく聞く話」になるわけです。
しかしながら、では「全て」の会社が同じ状況かと言えば、そうではありません。
実際にはヒット商品にも恵まれており、「マーケティングに強い」と一般の人から
まで思われている会社も存在します。
一般のビジネスパーソンに聞いても「マーケティングがうまいと思う会社」を聞けば
何社か名前が挙がるものです。
現場で見ていると、そこにはマーケティングが「強い」と言われている会社と、弱い
と言われている会社の「差」が確かに存在していることがわかります。
しかし、その「差」は、一体何で、どこから生まれているのでしょうか?
そんな事を考える事から、話を始めていきたいと思います。
それを考えるために、まずここで言う「マーケティング」とは何かという定義からはじめ
ますが、私達がここで言っている「マーケティング」とは、物でもサービスでも、何かを売る
時に、「より売れるようにするための仕組みづくり」の事を意味して使っています。
つまり「マーケティング」とは一言で言えば「売り方」です。
マーケティングが強いか弱いかは、本来はこの「売り方」が上手いか下手かという
論点になりますが、その差はそれぞれの社内の現場で見ていると、会社の「売り方」に
おけるリスクの取り方によって、大きな差となっている事がわかります。
一例を挙げます、例えば「A」という商品を売るとします。
このとき、「A」という商品には多様な魅力があります。
競合の商品に比べて持ち歩きやすいとか、製品の品質がいいとか、デザインにこだわって
いる(と自分達は思っている)とか。
でも、その全てを消費者に伝えようとしても、通常消費者はよほどのマニアでもなければ、
そんなに商品の事を多く知る気などありません。
だからこそ、消費者は、企業が伝えたいそれらの特徴のうち、一つぐらいを覚えてくれれば
恩の字という状況になるわけです。
そのために、企業側はその「たった一つの覚えてもらいたいポイント」をどう絞り込むか、
逆に言えば、「覚えてもらわなくてもいいポイント」をどうやってあきらめるかという課題に直面
する事となります。
しかし、実際このような「取捨選択」を社内でする際に、多くの会社では、何かを
「選ぶ」意思決定はできても、何かを「捨てる」意思決定が社内では出来ない事態が起きます。
その原因はこういうことです。
企業の中では、いろんな関係者がその製品の製作に関わっています。商品を企画する人間、
デザインを決めている人間、商品の中の技術開発を行っている人間、広報・宣伝を担当している
人間、管理部門の人間などなど。それらの人間が議論をして、製品の売り方を決めて、ポイントを
絞っていくわけです。
しかし、それら関係者の意見は、デザインの人間ならデザイン面をアピールするべきと主張する
し、企画の人間はコンセプトに絞るべきと主張するため、意見が往々にして分かれます。
そして意見が絞れないと、多様な意見が盛り込まれ、結果として組織としての売り方についての
「リスク」を踏めない事が多いからです。
そのような際に、マーケティングに強い会社はマーケティング部の発言力も強く、消費者視点
で「競合に比べて差別性があり、製品の魅力を感じてもらえるポイントで、自社の強みを活か
せる説得力も持ち、狙う生産量に相当する市場も作れそうなポイント」に絞り込む事が、組織
的に実施でき、了承も取られます。
そうやって絞り込むことで、他のポイントを伝える事を「捨てる」というリスクを取り、絞り込んだ
ポイントに広告・宣伝の予算を集中させ、効果的なマーケティング活動を実現できるわけです。
その上で、マーケティングに強い会社ほど、例えば広告は消費者視点で見れば「本来見たい
内容(テレビ番組など)を邪魔をするもの」という事をよく理解していますから、邪魔をしても楽し
んでもらえるように、エンターテイメントとして「見たくなるほど面白くする工夫」などの、細かい
テクニカルなノウハウも忘れません。
それらを加味した上で、広告代理店に依頼し、作ってくるクリエイティブを選定して広報宣伝も
行っていきます。
一方のマーケティングが弱い会社。
まず、マーケティング部が、社内のヒエラルキーの中において、位置づけがそもそも低すぎる
事が多くあります。
マーケティング的にどのポイントに絞るべきとマーケティング部などが意見を述べても、悲しい
けれど位置づけが低いために発言力が弱く、発言力が強い他の部署の意見が押し通されて
しまう。
そうすると、他の部署に「配慮」して、いろんなポイントがゴチャゴチャとのっけられてしまいます。
その上、どのポイントに絞るかと言っても、それらの数あるポイントが商品の機能の話なのか、
イメージの話なのか、例えばどの部署でも間違いなく伝わる製品のスペックの話なのかも部署ごと
に違い、そこを統一する議論のノウハウもなく、グチャグチャになっていたりする。
そして広告代理店へのオリエンが行われる。
しかし、例えばオリエンの後に、「この商品のターゲット像は誰に向けたものなのですか?
例えばターゲット像のデモグラフィックで言っても、男性向けなのですか、女性向けなのです
か?」と外部の方に聞かれても、マーケティングの方が「男性向け」と回答しようものなら、
「あれ?でも○○さん(他の部署の上層部の方)はこれからは女性市場を開拓しなきゃって
言ってたよ」などと、横から口を挟まれる統一感の無さ。
広告を提案する側はそんな状況を踏まえて、広告の意思決定への関与者が多く、関与する
全部署の責任者が広告案にOKの判子を押してくれる内容にしないと通らない状況であることも
理解します。そんな状況であるからこそ、皆が納得するクリエイティブを提案しなければいけない
という事になってしまいます。
でも、「皆が納得するクリエイティブ」というのは、要は「普通の」広告。
どこかの好感度が高い女優などが出てきて、にっこり笑って広告が行われる。
しかしながら、成熟して競争も激しい市場では、多様な広告が競合からも大量に出稿されて
います。その中で、「普通の広告」をお金をかけて出しても、目立って覚えてもらえるわけがあり
ません。
広告が普通でも、圧倒的な広告量だけで勝負できる独占的なトップシェアを持つ企業でもない
限り、そんな広告では広告の意味がなくなります。
そして広告は消費者に覚えられる事もなく、広告予算は効果が出ずに使われていきます。
このようなポイントを絞る際でも、他のマーケティング活動でもそうですが、何かを選び、結果として
何かを「捨てる」というリスクが取れていない会社。
そんな会社が、多くの人からマーケティングに弱い(強いイメージがない)と言われてしまう会社
となっている現実が、現場ではあるわけです。
 
では、マーケティングが強い会社になるためにはどうすればいいか?
それを行うためには、マーケティングの一要素である広告をどうするかとか、調査や分析
をどうするかといったノウハウを入れるだけではなく、そもそもマーケティング部の社内での
位置づけを変え、リスクが取れるように責任体系を変え、事業計画から商品開発の中でも
マーケティング的な観点を入れるために、事業計画、商品開発から販売、アフターフォロー
までの仕事の進め方を変えたりする事を含めた体制を見直さなければいけないという課題に
ぶつかる事が多いのです。
要は、マーケティングにおいてリスクが踏めるようにするために、マーケティング的な観点を
社内で適切なレベルまで重視する改革を実施し、その上で、マーケティング部が必要な情報
提供を関係者に行い、他部門と議論し、そして説得をするためのノウハウも得ること。
それが必要となるのです。
しかしながら、これら問題意識がある会社で改革を行おうにも、日本のマーケティング分野に
おいては広告代理店が市場調査も戦略策定も、広告の実施はもちろん、その評価も、広告予算
のオマケとして「何でも行ってくれる」便利な巨大な存在をしめる特殊な体制が長年行われて
きました。
そのため、現在でもこのようなマーケティング分野の改革の問題意識があっても、多くのケース
ではマーケティング分野のことは「とりあえず」広告代理店に依頼する事が多いのです。
たしかに、広告を出稿して広告・宣伝をする「通常の」広告を行う作業であれば、広告代理店の
何社かにオリエンを行い、コンペを行って選定し、広告をやってもらうという「通常の」フローで仕事
を行えば良いわけです。当然広告代理店は、各社ともそのためのノウハウを蓄積しています。
しかしながら、会社のマーケティングを根源的に強くするためには、会社の中でマーケティング
部が製品の企画・開発部門やサポート部門などの他部門について、どこまで口出しができるかと
いう「社内の位置づけ」を見直す事や、マーケティング的な観点から「取捨選択」をし、リスクを
踏める体制を作るために、意思決定者と責任の所在、範囲を見直す意思決定方法や体制の変更
等が必要となります。
つまり、事業のフロー全体を見直す改革が必要になるわけです。
これら作業を行う際に広告代理店に相談しても、広告代理店は広告媒体を売って収益を上げる
ビジネスモデルで商売をしているのですから、下手に改革なんて仕事に手を出して、クライアントの
社内の発言権に口出しをする事でクライアントの一部に反発され、結果として広告代理店の収益の
最大基盤である広告予算が減らされてしまいかねない危険性を踏むなんて、全体を鑑みた本音を
言えばやりたいわけがありません。
また広告代理店の場合は、組織や業務を改革しようにも、その担当をするクライアント企業の
部署の問題も発生します。
このような改革への取り組みは、クライアント企業のマーケティング部から依頼される事は少ない
のです。これら改革への取り組みは対象範囲が広く及ぶ改革になりますから、一般的には経営陣の
方の問題意識や、経営企画部門等の管理・企画部門の問題意識などが発端になることが多いのです。
しかしその相談を広告代理店にしてみても、広告代理店は通常メインのクライアント部門が広報宣伝
部門ですから、通常は経営企画部門などとの仕事の仕方のノウハウを積んでいません。
また広告代理店というビジネスモデル上、広告予算を持っているマーケティング部や広報部の方を向い
て仕事をせざるを得ませんから、他の部門を見渡しての客観的な発言は、どうしてもしにくくなってしまう。
結果的に、広告代理店では広告予算が収益基盤であるがゆえに、コンサルタントというスタンスで
仕事をするのは、ビジネスモデル上どうしても難しいのです。
しかしクライアント企業としては、マーケティング部署の「改革」においては、クライアント企業内の
課題を解き明かし、明示した上で問題解決を行うコンサルタントとしてのスタンスで仕事ができ、かつ
マーケティング業界のノウハウを持ったコンサルタントが必要になるわけです。
その必要性に答えられるようにするサービス、それを提供すること。
それが私達ブランド・コアが考える、コンサルタントの仕事の本来の価値です。


このような仕事の大切さを考える際によく御話する、昭和初期の童話の一つに「泣いた
赤鬼」というのがあります。(*1)
その内容はこんな内容です。
むかしむかし、あるところに赤鬼と青鬼がいました。
赤鬼は人間の子供が大好きで、なんとか人間の子供達と仲良くなって、一緒に
遊びたいなと思っていました。
でも、赤鬼の姿を怖がった人間の子供達は、まったく赤鬼に近づこうとしません。
そこで赤鬼は、御茶や御菓子を用意して看板を作り、遊びに来てもらおうとするのです
が、それでも子供達はやっぱり赤鬼の事を怖がって、誰も近づいてきませんでした。
悲しくなった赤鬼は、友人の青鬼に相談します。
すると友人の青鬼は、赤鬼のためにある策を考えます。
そしてその後のこと。子供達が遊んでいるところに、青鬼がやってきて、怖がらせます。
子供達はびっくり仰天、助けを求めながら逃げようとします。
そこに赤鬼がやってきて、こう言い放ちます。
「悪い青鬼め!子供達に何をするんだ!やっつけてやる!」
そして赤鬼は青鬼をやっつけて、青鬼は逃げて帰ってしまいます。
すると子供達は大喜び、すっかり赤鬼に感謝して仲良くなり、一緒に楽しく遊びました。
子供達が大好きな赤鬼は、子供達と楽しく遊んで、とても幸せな時間を過ごす事が
できるようになりました。
でも夜が来て、子供達は自分の家に帰っていきます。
そして赤鬼も、家に帰ろうと思います。
そして、ふと思い出します。
「そういえば、協力してくれた青鬼さんはもう帰ったのかな?
帰って御礼をしなくちゃ!」
そして、鬼の家に帰りました。
しかし、赤鬼が家に帰ると、もうそこには青鬼はいませんでした。
あったのは手紙だけ。
その手紙には、こう書いてありました。
「赤鬼さんへ
今日は策が成功して、赤鬼さんが子供達と仲良くなれて、楽しく過ごせる
ようになって、本当によかった。僕もすごく嬉しいです。
あとは、せっかくできたこの環境も、僕がここにいると、いつかは赤鬼さんと僕が
仲間だという事がばれてしまって、この環境が壊れてしまうので、
僕はここから居なくなって、長い長い旅に出ます。
どうか僕の事は探さないでくださいね。
幸せにすごしてください。
青鬼より」
それを見た赤鬼は、ワンワンと泣きました。
悲しくて、青鬼を泣きながら探しました。
でも、もう青鬼に会える事はありませんでした。
おしまい。
と、大体こんな話です。
私達は、コンサルティングという仕事は本来的に、この「青鬼役」をやる仕事だと考えて
います。
自分達の会社の位置づけを変える作業は、いろんな人の権利や発言力を変えかねない
内容ですから、当然多くの人が反発します。
たとえばマーケティング部の発言力が弱かったのが強くなれば、他の部署の人から見れば
面白いわけがありませんから、当然です。
それを社内だけで行っても、なかなか上手く進まないのは、そのような事情から社内の
ヒエラルキーに潰されてしまう場合が多いからです。
しかし、そこに「鬼役」として社内のヒエラルキーに潰されない、外部の異分子であるコン
サルタントが入る事で、本当の問題点を解き明かし、改革を潰されないように論陣を張り、
最後はクライアントに花を持たせるための青鬼役となって、悪い部分は社外に目を向けさせ、
良い部分は社内が賞賛されるようにすることで、改革を成功裏に動かすための尽力を行う
のです。
そして、適切なマーケティング予算で、効果的なマーケティングができる会社へとクライ
アントを変えること。それは社外から見れば、マーケティングが強い会社へと変えること。
それこそが、マーケティング・コンサルティングの価値だと考えています。
だからこそブランド・コアでは、コンサルタントは、あくまで青鬼役としての価値を発揮できる
ようにするべきであり、マーケティングの調査や分析、広告代理店の選定や、PRや販促のノウ
ハウを提供する「だけ」であってはならないのです。
それらのノウハウももちろん提供していますが、しかしコンサルタントとしての本領は、もっと
先にあります。
その本来の仕事を行うことで、多くの企業がマーケティングも強くなること。
そしてクライアント企業が収益においても強い企業へとなるよう変革していくこと。
このサービスは、日本企業においても、新興国企業の成長によってマーケティング活動のうち
特にブランディングが、自社の収益性を高めるためにより重要になっている今こそ、より重要度が
増すサービスになっています。
そのような質の高いサービスを提供すること。
それがマーケティング・コンサルタントの本当の価値だと考えて、その質を高めるための努力を
しています。
Oct, 2008
株式会社ブランド・コア
代表取締役 福留 憲治
※「泣いた赤鬼」
浜田廣介著、1933年(昭和8年)の作。
この時代になると、童話も単純な「正義と悪」という構図ではなく、「悪」である
「鬼」役にも、読者の主観となる正義役と同様の「主観的な正義」があるという、
現実に即した観点で描かれるようになった作品の一つ。
これは童話においても考察のレベルが深くなった事によって、相手にも多面的な
考察を行えるようになり、自分と同様の観点があることの大切さを表現していると
捉える事もできる。


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